噛みそうなタイトルですみません
現在の日本では上場会社である場合、金融商品取引法という法律が適用されます。
普段目にすることが多い有価証券報告書は、この金融商品取引法が根拠となって作成されています。
この有価証券報告書を発行する理由の一つとして投資家への情報提供、平たく言うと資金集めがあります。
しかし、この有価証券報告書に記載されている財務諸表の数字が虚偽であった場合どうなるでしょうか?
要するに、経営がうまくいっていない会社が、今年の売上が実際には1000万円しかないのに1億円と書きかえて損益計算書を作成した場合….。いわゆる粉飾というものです。
実際には来月に資金ショートすることが確実な会社なのに1億円を売上げる優良会社だと”信じて”投資家は投資、そして会社は倒産….。という事態が発生します。
このような事態が連鎖すると、財務諸表に対する信頼性がなくなり、最悪の場合、投資家が企業に投資を行わなくなる、つまり経済が停滞する危険性もあります。
そこで活躍するのか会計監査という業務です。※1
、会計監査人は経営者が作成した財務諸表について、基準に照らし合わせて重大な虚偽(不正・嘘の情報)がないことを保証するのが仕事です。
一般的には監査法人という公認会計士が集まっている監査法人と契約して監査をお願いするのが一般的です。
今回上げる関西大手私鉄は上場会社のため、全社が監査法人と契約して監査を行っています。
※1 ここで上げたのは金商法を法的根拠とする金商法監査と呼ばれるもの。これ以外にも上場非上場関係なく、一定の規模以上の会社は会社法を根拠とする会計監査人による会社法監査として似たような監査を受ける必要があります。
代表的な監査法人
監査法人は特に法人によって業務内容が違うということはありませんが、歴史や規模といった点で区別がなされ、現在は大手(大規模)監査法人のBig4とその他中(準大手)小監査法人に大別されます。
因みに中規模監査法人(準大手監査法人)には何かとホットなひびき監査法人、仰星監査法人が分類されています。
4大監査法人(Big4)とは
4大監査法人とは、日本の監査法人で大手と呼ばれている4法人(あずさ、あらた、トーマツ、EY新日本)のことを指します。
また、それぞれの監査法人は同じく海外の大手監査法人及びコンサルティンググループの提携しており、まとめて4大監査法人やBig4と呼ばれています。
注意:日本の監査法人は日系です
よく間違えられるのですが、この4大監査法人は日本育ちの日系法人です。ただし、先ほど述べた通り、提携している海外の監査法人及びコンサル会社(KPMG、PwC、デロイト、EY)が外資ということになっています。
EY新日本やPwCあらたなど、社名にアルファベットが入っているのに加えてコンサル会社が人気かつ有名になてしまった為、よく間違えられますが監査法人自体の出生は日系法人です(これ(日系)が発端でちょっとした騒ぎになったこともあります…)
あずさ監査法人
ひと昔前は「朝日監査法人」という名前を名乗っていました。
また、朝日監査法人時代は「アーサーアンダーセン」という知る人ぞ知る監査法人と提携していたことでも有名です。
余談ですが、いまITコンサル業界でブイブイ言わせているアクセンチュアはアーサーアンダーセンを源流とする企業です。
現在はKPMGグループと提携しています。
また、コンサルティング会社の名前はKPMGコンサルティング。
大阪事務所は淀屋橋の日本生命ビルに入っていますが、税理士法人のKPMG税理士法人は中之島エリアに事務所があります。
PwCあらた監査法人
PwCあらた監査法人は4大監査法人の中で最も新しい法人です。
PwCは人の名前の略称で、プライス・ウォーターハウスクーパースといいます。
新しい理由は少しややこしいのですが、日本で発生した巨大粉飾の1つであるカネボウ事件がかかわっています。
約10年ほど前、カネボウという会社が粉飾を起こしました。が、、、
カネボウ事件(粉飾)を指南していたのがまさかの中央青山監査法人(のちのみすず監査法人)所属の会計士で、もちろん監査法人は業務停止命令、信頼も失墜し解散することになりました。
その事件後、海外提携先のPwCが中央青山監査法人の顧客の救済として中央青山監査法人の一部を独立させて作った法人ががあらた有限責任監査法人ということになります。
そのためか、所属している会計士の人数は他の4大監査法人に比べると比較的少ないです。
因みに顧客にはトヨタグループを抱えており、そのあたりも関係したのかもしれませんね。
京都事務所は独自にPwC京都監査法人と名乗っており、こちらも任天堂や京セラといった京都の名立たる企業を顧客として抱えています。※記事作成当時。現在はPwCあらたと合併し消滅。
大阪ではグランフロント大阪のオフィスタワーに大阪事務所が入っています。
トーマツ監査法人
トーマツという名前は大昔にいた大変すばらしい会計士である等松農夫蔵さんの名前です。
海外提携先はデロイト・トウシュ・トーマツ(DTC)になります。デロイトもトウシュも人の名前です。
大阪ではあずさ監査法人と近く、日本生命の向かいにある淀屋橋三井ビルに入っています。
EY新日本有限責任監査法人
昔は「太田昭和監査法人」という名前で活躍していた法人です。
東芝の監査を担当していた監査法人でもあり、その後色々あった日産もここの顧客で、何かと当たりやすい感じはします(但し、日産の件については監査法人は無関係です)
海外提携先はEY(アーンスト・アンド・ヤング)で、こちらも人の名前です。
大阪では梅田阪急ビルの上、大阪梅田ツインタワーズ・ノースに事務所を構えています。
関西大手私鉄の監査法人は???
ここからは本題なのですが、関西大手私鉄(近鉄GHD、京阪HD、南海、阪急阪神HD)はどこに監査してもらっているのか?というお話
結論このような状況になっています(2023年8月現在)
関西大手私鉄グループ4社のうち、3社はあずさ監査法人、京阪HDのみEY新日本監査法人が監査を担当しています。
PwC、トーマツに関しては0という結果となりました。
あずさ監査法人に偏っている状況です。
それぞれの企業について、継続年数(何年同じ監査法人にお願いしているのか)については以下の通り
どの会社も50年近い付き合いとなっています。要するに監査法人の乗り換えが起きていないのいうのが現状となっています。
なお継続年数の長期化については先ほどのエンロン事件やカネボウ事件、東芝事件といった粉飾の歴史から癒着の可能性や職業的懐疑心(簡単に言うと”慣れ)の点を問題視する声も確かにあるのですが、様々な理由で簡単に監査法人を変えることも難しいというのが現状です。
表の右側は携わった監査スタッフの人数を表しています。近鉄GHDについては売上1位にふさわしく60名もの監査スタッフが携わっています。
このように大企業を顧客として抱えるとなると多くの人的資源を投入する必要があります。この点から、やはり大規模監査法人の中では最も小規模で既に超大手が顧客にいるPwCあらた監査法人が対応するのは難しいんじゃないかと推測されます。
…となると、監査法人の乗り換え先もかなり限定されてくる…ということになります。
因みに、”監査法人の独立性”という観点から、監査を受け持っている企業と何らかのつながりを持つことは避けられます。
つまり、阪急阪神HDは阪急阪神グループ資本のオフィスタワーに入っているグランフロント大阪のPwC、梅田ツインタワーズのEYに監査をお願いすることが難しくなり、これも鞍替えが起こりにくい一つの理由ともいえます。
大手私鉄16社は???
関西私鉄の結果が割と(ごめんなさい)素っ気なかったので、大手私鉄+JR(上場)も調べてきました。
大手私鉄まで範囲を拡大するとトーマツ監査法人に監査を依頼している企業も現れましが、やはりPwCあらた監査法人については0という状況です。
鉄道はあずさ監査法人が強い?
強い、というと語弊があるかもしれませんが、大手私鉄16社に広げてみてもあずさ監査法人とEY新日本監査法人のカバー率が高いことがわかると思われます。
ノウハウの問題なのか、規模の問題なのか、はたまた営業力の違いなのか判りませんが、鉄道会社の多くはこの2つの監査法人にお世話になっているのがよくわかりますね。